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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)877号 判決 1966年12月05日

控訴人 上牧村

被控訴人 株式会社第三相互銀行

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、金五〇万円及びこれに対する昭和三七年三月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審ともこれを四分し、その一は控訴人の負担とし、その三は被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠関係は、左記に附加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

控訴代理人の陳述

訴外株式会社川畑組は控訴人に対する金二〇〇万円の請負工事代金債権を被控訴人に譲渡したことおよび昭和三六年九月一四日付書留内容証明郵便をもつてその旨通知してきたことは認めるが、次に述べるような理由により、控訴人はその支払義務がない。すなわち、控訴人は川畑組に対して金七四五万円の請負工事代金債務を負担するほか、別口の工事関係に基づく金五万円の債務を負担していたが、控訴人は川畑組に対し、(イ)昭和三六年四月二四日金二〇〇万円(ロ)同年六月一五日金五〇万円(ハ)同年七月一七日金五〇万円(ニ)同年九月九日金一五〇万円、合計金四五〇万円を支払い、結局、控訴人の川畑組に対する残存請負工事代金債務は金三〇〇万円である。ところが右(イ)の二〇〇万円支払後でかつ前記債権譲渡通知前である昭和三六年五月一六日頃訴外田辺製材株式会社(以下単に田辺製材と略称する)と川畑組と控訴人の三者間で、控訴人が川畑組に支払うべき請負工事代金のうち金三五〇万円を川畑組に支払うことにかえて直接田辺製材に支払う旨の合意が成立し、田辺製材が右金三五〇万円の請負代金債権について控訴人に対する給付請求権を取得した。田辺製材は右のうち金一〇〇万円の支払いを受けたのみでその余の支払をしないとして、控訴人を被告として、右給付請求権に基づき金二五〇万円の請負代金の請求訴訟を奈良地方裁判所に提起した(同庁昭和三六年(ワ)第二五〇号事件)。控訴人は右事実を争つた結果昭和三七年一一月二〇日、原告たる田辺製材敗訴の判決があり、田辺製材は大阪高等裁判所に控訴した(同庁昭和三八年(ネ)第一三〇号事件)。控訴審においては、田辺製材主張の給付請求権の存在が認定され、昭和三九年一〇月一五日、田辺製材勝訴の判決があり、これに対し控訴人は最高裁判所に上告したが(同庁昭和四〇年(オ)第八五号事件)、昭和四一年九月一六日、上告棄却の判決があり、控訴審における田辺製材勝訴の判決は確定した。そうすると川畑組が被控訴人に譲渡した金二〇〇万円の請負工事代金債権については、その債権は存在しなかつたものといわなければならず、債権譲渡の効果も発生しない。なお控訴人は被控訴人に対し譲受債権の弁済として被控訴人主張のとおり金一五〇万円を支払つた。

被控訴代理人の陳述

控訴人の右合意成立に基づく主張事実を争う。被控訴人は本件譲受債権につき、昭和三六年一一月一五日金五〇万円、同年一二月六日金一〇〇万円の弁済を受けた。

証拠関係<省略>

理由

控訴人が訴外株式会社川畑組との間において、昭和三六年二月一五日、控訴人上牧村の村営住宅新築工事について、請負工事代金を金七四五万円とし、工期を着工同年二月二八日、竣工同年六月二〇日、請負工事代金は工事完成と同時に全額支払う旨の工事請負契約を締結し、川畑組が右新築工事に着工し、その後竣工期日を延長して同年一二月末日右工事を完成してこれを控訴人に引き渡したことは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第二号証ないし第五号証及び原審証人川畑清、同日下勝の各証言によれば、川畑組が被控訴人に対し、昭和三六年九月一四日、右請負工事代金のうち金二〇〇万円と一五〇万円の二口合計三五〇万円の債権を譲渡し(金二〇〇万円の債権譲渡のあつたことは控訴人も認めて争わないところである)、右二口についてそれぞれ同月一五日到達の書面で控訴人にその旨通知したことが明らかである。

そこで控訴人の抗弁について判断する。成立に争いのない乙第一、第二、第三号証、原審証人日下勝の証言、当審での控訴人代表者尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、次の(一)(二)の事実を認めることができる。

(一)  控訴人は川畑組に対する前記請負工事代金債務に対し、(イ)昭和三六年五月一六日までの間に金一九五万円(別口の五万円の債務と合せて金二〇〇万円ただしその日が控訴人主張の同年四月二四日であることを認める的確な証拠はない)(ロ)同年六月一五日金五〇万円、(ただし川畑組代理人田辺製材を受取人として)(ハ)同年七月中旬金五〇万円(前同)以上合計金二九五万円を支払つたこと、

(二)  昭和三六年五月一六日頃かねて川畑組に工事用木材を売り渡しその代金債権を有する田辺製材と川畑組と控訴人の三者間で、控訴人が川畑組に支払うべき請負工事代金のうち金三五〇万円を、川畑組に支払うことにかえて直接田辺製材に支払う旨の合意が成立し、これにより田辺製材は右金三五〇万円の請負代金債権について控訴人に対する給付請求権を取得し、この合意に基づいて控訴人は右(一)の(ロ)(ハ)のとおり合計金一〇〇万円を田辺製材に支払つたこと、

以上(一)(二)の事実を認定することができ、右認定を左右する証拠は存しない。なお、そのほかに控訴人は本件債権譲渡通知の前である昭和三六年九月九日川畑組に対し金一五〇万円を支払つたと主張するがこれを認める証拠はない。

債権の譲渡については、債務者は、債権譲渡の通知を受けるまでに、譲渡人に対して生じた事由をもつて譲渡人に対抗することができることは民法第四六八条第二項の規定するところである。右(一)に認定した各弁済がその事由にあたることはもちろんである。(二)に認定の田辺製材と川畑組と控訴人の三者間で、昭和三六年五月一六日頃成立した、控訴人が川畑組に支払うべき請負工事代金のうち金三五〇万円を川畑組に支払うことにかえて、直接田辺製材に支払う旨の合意そのものは、もとより弁済その他の債務消滅事由ではなく、またこれにより川畑組から田辺製材に債権の主体の変更があつたとするわけにはいかず(控訴人はこの合意により、その範囲において川畑組の被控訴人に対する債権譲渡はその効果を生じえないと主張するがあたらない)、したがつて、川端組は右合意の成立以後においても依然未払残存債権を有するわけであるけれども、川畑組は右合意の拘束を受け、控訴人に対し金三五〇万円の範囲においては直接その支払を請求することを許されず、控訴人もまた川畑組からの直接の支払請求に対しては、金三五〇万円の範囲においては右合意成立をもつて抗弁となしうべき筋合いである。そうすると、債権譲渡は請求の同一性を保ちつつ主体を変更するにすぎず、当然には債務者の有する抗弁権を切断するものではないのであるから、債務者たる控訴人は本件債権譲渡の通知の日までに右譲渡人たる川畑組に対して生じた事由として、右合意の成立をもつて譲受人たる被控訴人に対抗しうるものといわなければならない。

そうすると、控訴人は川畑組に対する金七四五万円の工事請負代金債権について、本件債権譲渡通知のあつた昭和三六年九月一五日現在において、前記(一)の金二九五万円の弁済の抗弁、前記(二)の合意金額三五〇万円のうち前記(一)の(ロ)(ハ)の各支払を控除した金二五〇万円について合意に基づく抗弁を有するがゆえに、控訴人は請負工事代金七四五万円のうち金三五〇万円の債権譲渡を受けた被控訴人に対しては、結局二〇〇万円の債務について支払義務を負担するに至つたものと認めるほかはない。

そうして、控訴人が被控訴人に対し右譲受債権に対する弁済として、昭和三六年一一月一五日金五〇万円、同年一二月六日金一〇〇万円合計金一五〇万円の支払をしたことは当事者間に争いがない。

そうすると被控訴人の本訴請求のうち金五〇万円およびこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和三七年三月七日以降その支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当として認容すべくその余は失当として棄却すべきである。

よつてこれと異なる趣旨の原判決は変更の要があるから、民訴法第三八六条、第九六条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平峯隆 中島一郎 阪井いく朗)

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